自ら大家としての経験も有する、不動産・相続トラブルに注力する弁護士の山村が、不動産トラブルを予防するために、実話を基にした解決事例をご紹介します。
1、築古物件トラブル<ケース3>
築古物件特有のトラブル第3回目となります。利回り重視のために、築古物件を購入してアパート事業を営む、相続などで取得した築古物件を賃貸するなど、大家業と築古物件は切っても切り離せないものです。
今回は、比較的多い、「 害虫トラブル 」についてご説明します。どちらかというと、地方の物件でのご相談が多いですが、都内の一等地でも害虫の賃貸トラブルのご相談はあります。
2、賃貸での害虫トラブル
老朽家屋ですと、賃借人から「 ダニがでるから清掃業者を入れて欲しい 」「 ゴキブリがでるから、解約したい 」などなど、害虫を理由に、害虫の駆除または解除を申し入れられることがあります。このような場合、大家さんとしては、どのように対応していくべきでしょうか?
まず、害虫駆除を専門業者等をいれて対応しなければいけないかどうかについては、コラム11話も参考にしていただきたいのですが、カギは害虫の影響が一般的に居住に適さないレベルに達しているかどうか、です。
参照:築古物件トラブル【ケース1】築古物件の修繕はどこまで大家が負担すべきか?
一般的にみて、さすがにこれは住めないだろうというレベルであれば、大家が費用を負担して駆除しなければなりません。他方、賃借人の方が不快に感じるだけであって、多少の虫が発生する、というのでは対応する必要がありません。
では、この判断をどうしていくかですが、専門業者と相談して決めていくほかないと思います。法的な基準というのは、どうしても、個別のケースバイケースごとに裁判所が柔軟に判断できるように、一義的に明確な基準で定まっているものが少ないです。
そのため、賃借人から害虫駆除の相談がきた場合には「 管理会社 」「 害虫駆除の専門業者 」等と相談しながら、現地の状況をみて考えるしかありません。
一点注意すべきは、「 管理会社 」は円満に事態を収めたいというインセンティブがありますし、「 害虫駆除の専門業者 」は清掃業務を受注したいというインセンティブが発生するという点です。大家さん目線では、自分が感じたよりやや厳しめに考えてみても良いかもしれません。
もっとも、害虫駆除等に対応しない場合、入居者が解約して退去するという選択を取るかもしれません。
その場合、害虫の影響に疑義がでるような状況であれば、「 修繕義務違反による即時の解除 」という理屈は成立しない可能性が高く、「 契約書記載の賃借人からの任意の解除条項( ※一般的に、「 賃借人から解約申し入れ後3カ月で解除できる 」などの条項 )」に基づいて解除を協議していくことになるでしょう。
賃借人の中には、「 駆除もしてくれないし、害虫のせいで退去するのだから、即時解除したい。むしろ、害虫のいる場所に住まわされたからの損害賠償を請求する 」というようなことを言ってくる方もいるかもしれません。
ただ、このような主張は、賃借人側に害虫の被害の程度の立証責任も発生しますし、法的な相場から言うと、かなり厳しい主張になります。大家さん側としては、敷金等も預かっていますし、強気に交渉して良いでしょう。
3、売買で害虫トラブル
売買の場面では、害虫被害は「 契約不適合責任( 瑕疵担保責任 )」に直結するため、賃貸場面よりも非常に重要です。契約不適合責任についてはコラム12話もご参考にしてください。「 害虫 」と一括りにいっても、影響が違ってもきます。
参照:築古物件トラブル【ケース2】売却した物件の契約不適合(瑕疵担保)について
1)白アリ被害
白アリ被害については、瑕疵担保責任の場面で頻出の問題です。築古木造家屋ということであれば、必ずチェックすべき項目といえるでしょう。害虫のなかでも別格です。
木造家屋における白アリは、居住者の快不快ではなく、家屋自体を倒壊させる危険性をもつものだからです。白アリのトラブルは多く、年に数件は必ずご相談を受けています。
大家さんの売却の場面で考えますと、仮に過去に白アリ駆除の経歴があったとすれば、必ず、仲介業者、買主に告知すべきです。
契約不適合責任免責条項を付していたとしても、売主の告知義務違反があれば、その条項が意味をなさなくなる可能性があるからです。既に駆除済みだから、10年以上前のことだから、というのは理由になりません。
必ず伝えるべきであり、それによって生じる売買代金額の低下は、残念ながら大家さんが受け入れるべき負担だと言えます。トラブルの大半は、この告知が曖昧になっているケースが多いです。
物件を取得する前に発生していたかどうかが分からないのであれば、それも必ず「 物件状況告知書 」に明記してもらい( ※仲介が作る書類 )、買主側の署名捺印をもらっておくべきです。
白アリで瑕疵担保責任を認めた裁判例は多数ありますので、害虫の中でも別格に注意すべき項目と言えます。
2)白アリ以外の害虫
数カ月前に実際にあったご相談でも「 コウモリ 」被害の相談もありました。その際検討した過去の裁判例をご紹介させていただきます。
ア、
神戸地方裁判所判決/平成10年( ワ )第2128号( 判決日付 )平成11年7月30日の裁判例( ※出展「 判例秘書L05450371 」)でして、結論から言うと、購入した中古住宅の屋根裏に多数のコウモリが住み、この駆除が必要なことにつき、売主の瑕疵担保責任が認められた事例です。
イ、
まずは、虫や蝙蝠などが瑕疵にあたるかどうかに関して、「 住居は、単に雨露をしのげればよいというものではなく、休息や団欒など人間らしい生活を送るための基本となる場としての側面があり、かつ、それが住居用建物の価値の重要な部分を占めているといえる。
その意味で、その建物としてのグレードや価格に応じた程度に快適に( 清潔さ、美観など )起居することができるということもその備えるべき性状として考慮すべき 」と裁判所は認定しています。
私の記事では分かりやすく「 快不快までの修繕義務はない 」というニュアンスでも記載していますが、厳密には、想定している物件の取引金額、グレードから、多少虫がいても良い物件なのかどうかが変わってきますよ、ということですね。
具体例でいうと、新築マンション特にタマワン高層階ではゴキブリなどがでることは想定できないでしょう。他方、築古1~2階建ての戸建では、むしろ虫などがいて自然と言えます。
ウ、
その上で、今回の物件は注文住宅でかなり高額であるということを認定し、「 従前居住していた家で虫害に悩んだという引っ越しの動機は本件売買契約前に被告も承知しており、ムカデやゴキブリが屋根裏に巣くっていないかと尋ねられたのに対して、同被告はそのようなものは見たこともないと答えているのであるから、ムカデやゴキブリに類する一般人において嫌忌する生物が多数巣くっていないという意味での清潔さや快適さが本件建物の性状として合意されていた 」といえると、虫などは基本的にいない物件だということを事前に合意していたという認定があります。
エ、
結果として蝙蝠について「 蝙蝠は、害獣とはいえないが、一般的には不気味なイメージでみられているといえ、先にみたように本件建物に巣くった蝙蝠の数は極めて多数であるため、その不気味さも増す上、それによる糞尿も夥しい量となり、本件建物の天井や柱を甚だしく汚損し不潔になったものであって、そのままでは、原告らにおいてはもとより、一般人の感覚でも、本件建物は右価格に見合う使用性( 清潔さ・快適さ )を備えたものといえないことは明らか 」と蝙蝠被害の程度のひどさを指摘して、瑕疵担保責任を認めています。
オ、
なお、瑕疵担保責任を認めはしましたが、慰謝料や住み替え( 一時的なホテル代 )などは認めず、修繕費相当の駆除費用と清掃費用を損害賠償の対象として認めています。住み替え費用を認めなかった点は、概要「 コウモリがいても住めないほどではない 」という理由によるものです。
4、まとめ
今回は、害虫、害獣に関連する賃貸トラブル、売買トラブルについてご説明させていただきました。古い家屋ではトラブルになりやすい要素ですので、事前知識をもって取引に臨みたいですね。
大家さん側としては、事前の情報収集と、いざとなったら早期に専門家に相談するということを肝に銘じて、リスクを抑えるアパート経営に励みましょう!
■ 大家さんのトラブル専用ホームページを公開しました
最後に一つ、お知らせです。大家さんのトラブル専用のホームページを公開しました。今後は定期的にセミナー、無料相談会等も開催していきますので、興味がある方はブックマーク等お願いいたします!( おそらく、自然検索では辿り着かないと思われます・笑 )
https://fudousan-ooya.com/
少しでも不動産賃貸業にかかわるトラブルで悩む方が減れば、幸いです。