知っておきたい
耐震補強の基本
築古賃貸物件の改修アイディアを軸に、空室対策や不動産活用を実現していくためのプラットフォーム「モクチンレシピ」。
「少しの予算と工夫で、たくさんの魅力を」を合言葉に、会員に向けてコストパフォーマンスの高いリフォームのレシピを提供している。
本連載は、そのモクチンレシピの改修・リフォームのアイディアをもとにした『不動産投資家のDIY&リノべ講座』である。
モクチンレシピを展開するNPO法人CHAr代表の連勇太朗(むらじ・ゆうたろう)さんは「熊本地震や能登半島地震では、多くの建物が倒壊しました。築古物件を所有している不動産投資家は、地震のリスクと向き合う必要があります」と話す。
不動産投資家のDIY&リノべ講座VOL.21となる今回は、ただ単に建物を強化するだけではない、モクチンレシピ流の耐震補強をご紹介する。
新耐震基準を満たしていても
地震で倒壊することはある
まず最初に、建物を購入するとき、新耐震基準か旧耐震基準を確認する必要がある。1981年以前に建てられた旧耐震基準の物件は、その多くが耐震補強をしておらず、新耐震基準を満たしていない。
たとえば、住宅セーフティネット法の制度を使って、補助金を活用してリフォームをする場合も、新耐震基準を満たしていることが要件になっている。旧耐震基準の物件は、相対的に物件価値も低い。
新耐震基準を満たしていれば安心というわけでもない。「建築基準法の耐震基準は、命や財産を守ることが目的であり、地震にあっても倒壊しないようにする基準です。例えば倒壊しなければ避難できますね。だから、耐震基準を満たしていれば建物自体がずっと使い続けることができるということではありません」と連さんは注意喚起する。
阪神淡路大震災のときに耐震基準が見直され「2000年基準」と呼ばれる基準も生まれた。木造の場合は、この基準を満たしているかどうかも一つのポイントになる。
では、旧耐震基準の物件は絶対ダメなのかと言えば、そうとも言えない。耐震補強工事をすれば、新築と同様に耐震基準を満たすことができるからだ。
日本は地震大国である。耐震性が向上すれば、新しい入居者募集のプラス材料にもなるだろう。
壁量計算にもとづき
耐震補強をする
今回紹介するのは、壁量計算にもとづく耐震補強を踏まえたリフォームである。
壁量計算は建築基準法施行令第46条4項に定められている構造計算で、地震力と風圧力に対する必要な壁量が計画されているか確認するためのものだ。
ここでいう壁は、耐力壁を指す。耐力壁とは、地震や台風など水平の力から建物を支える役割を持つ壁のことで、筋交いが入っているか、構造用合板で柱と柱の間が押さえられているかなどの要件を満たすもの。耐力壁がバランスよく配置されていれば、耐震性が向上する。
なお、耐震補強に関しては設計士等に協力してもらうことが前提となる。
筋交いを効果的に使い
耐力壁を増やす
耐震補強の方法はいろいろあるが、今回は主に耐力壁を増やすリフォームを紹介していく。リフォームをする上で一番やってはいけないのは、現状より耐震性を悪くすることだ。
壁を取り除くのも、窓を大きくするのもいいが、それによって耐震性を損ねてしまうこともある。そこで重要になるのは、筋交いの扱いである。
こちらの写真をみてもらうと、ガラスに筋交いが入っているのがわかる。もともと壁だったところに筋交いを入れているので、耐力壁としてカウントすることができる。
耐力壁をつくる場合、必ずしも空間を区切ったり、部屋が暗くなったりすることはない。デザイン的にはいろいろとチャレンジできるのだ。
解放感を残しつつ耐震補強する
リフォームレシピ「くりぬき土間」
続いて、耐震補強に関連するモクチンレシピを活用したリフォーム事例を紹介しよう。
工務店に依頼をすると小窓を潰して耐力壁にしがちだが、部屋が暗くなってしまう。そこで、部屋と廊下と玄関の間に、土間をつくるレシピが「くりぬき土間」である。
壁として使うところは使い、開けるところは開けてメリハリをつけている。なお予算は一戸あたり35万5000円(間取りを含めたプランを作成した上で、工務店に正確な見積もりをとっていただく必要があります)からとなっている。
続いて紹介するのは「耐震壁ベンチ」である。
一般的な耐震補強の問題は、壁量を増やしたり強くするために、既存の窓を塞いだり、開口部が少なくなってしまう。
耐震性能そのものはよくなるが、部屋が暗くなって閉鎖的な魅力のない建物になってしまうことも。
「耐震壁ベンチ」はL字型の耐震壁でベンチを囲むレシピ。このベンチが少しおしゃべりできるスペースになったりする。
ビフォーアフターでその違いを感じてほしい。せっかく耐震補強をするくらいの工事費をかけるのであれば、デザイン性や空間の居心地もセットで考えたいところだ。
なお、工事にかかる予算は6万円からとなっている。耐震壁の補強は、見積もりに含まれていない。耐震壁は建物全体の改修において計画を立てる必要があるため、他の壁の耐震補強と合わせ検討してほしい。
大切なのは、耐震補強をして単純に新築と同じ状態を目指すということではない。新築に近づけても本当の新築に勝てるわけではない。市場価値が上がるリフォームを目指してほしい。
しっかりとリフォームプランを受けとめ、こちらの意図を組んでくれる工務店等にオーダーすることも非常に重要だ。
最後にモクチンレシピの連さんは「耐震補強にはお金がかかります。だからこそ、ただ強度を上げるだけではなく、デザインにもこだわることで差別化しましょう」とアドバイスしてくれた。
さて、今回のリノベ講座はここまでである。モクチンレシピのリフォームに興味がある人はぜひ、これまでに紹介した連載記事も読んでみてほしい。
VOL.1 築古物件の差別化戦略
VOL.2 押入れの改修・リフォーム
VOL.3 300円でできるカラーリング
VOL.4 遊び心のある外構リフォーム (前編)
押入れの高コスパ内装リフォーム(後編)
VOL.5コスパ最強格の照明リフォーム
VOL.6コスパと住み心地を両立させる床リフォーム4選
VOL.7予算1万円からの高コスパ外構リフォーム
VOL.8不人気のアパート1階をウリに変える外構リフォーム4選
VOL.9繁忙期に間に合う! 今すぐできる簡単リフォーム5選
VOL.10プロでも難しい! 素人がやってはいけないリフォーム
VOL.11ちょっと待って! 和室を洋室化する前に知ってほしいこと
VOL.12築古物件をバリューアップする色選びのルール
VOL.13ワンルームをコスパよくリフォームするアイディア
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VOL.17床と壁、リフォームを優先するのはどっち?
VOL.18ボロ戸建再生にアクセントを加える床リフォーム
VOL.19繁忙期の速攻DIY&繁忙期を逃した空室でやりたいこと
VOL.20ただモノを置くだけじゃない! あなたの知らない棚の世界
健美家編集部(協力:
(とやまたけし))