高齢者や外国人、ペットを飼う人などこれまで家主が避けてきた入居者も欠かせない時代。少子高齢化に伴う人口減少によって空き家も増加している。マンションやアパートなどの賃貸住宅オーナーは、適正賃料での満室稼働が難しくなってきた。
優良入居者に賃貸して安定運用といきたいところだが、生活ルールを守らない、騒いだりする悪質入居者に当たったら最悪である。こうした人は、物理的・精神的に他の入居者に迷惑をかけ、他の優良入居者の退去リスクを高めているだけである。
そうした悪質な入居者を未然に防ぐ方法として、定期借家契約に着目する大家がじわり増えているようだ。定期借家契約とは、賃貸期間が終了すると借家契約が終了する終了型、貸主・借主の双方の合意による再契約が可能な再契約型がある。2000年に導入された制度だ。
アットホームが首都圏を対象に「定期借家物件」(居住用賃貸)の成約状況をまとめたところ、今年3月まで1年間での定期借家による成約数は6585件で前年度比 8.5%増えたことがわかった。増えたのは3年ぶり。
成約物件は、「マンション」が 58.9%で最も多い。マンションの成約は、東京23区の城南・城東エリアでの増加が目立った。神奈川県は「アパート」が大幅に上昇し48.5%とマンションを超えている。
同社によると、定期借家の成約が増えたのは「新築の物件が増えたため。新築は利用されやすい。新築オーナーの不良入居者対策として利用するケースが少なくない。普通借家の物件よりもグレードが高い傾向にあるのが定期借家物件の特徴だ」と説明する。
空室対策を手掛けるリーシングジャパン(東京都渋谷区)の沖野元代表は、定期借家物件にすることを積極的にオーナーに働きかけている。
アットホームの説明と同様に「定期借家は、既存の入居者がいない状態で賃貸経営をスタートする新築で導入しやすい。定期借家契約は普及していないというイメージが定着しているようだが、首都圏ではじわり増えてきている」と話す。
ただ、地方ではまったく普及していない。首都圏は、礼金・敷金・更新料有りがまだまだ一般的だが、地方に行くとこれがまったく貰えないエリアもある。
商習慣の違いもあるが、需給状況の影響も大きい。そうした地方で仮に定期借家を導入したとしても、契約終了による退去後の客付けに苦労して礼金・敷金が徴収できない、再契約しても更新料が徴収できない、となれば普通借家契約よりも更新手続きに手間のかかる定期借家では割に合わないからだ。
定期借家の再契約による更新手続きは、重要事項説明を再度行う必要があるし、保証人を付けた場合は、保証人からの承諾書をもう一度貰わなければならない。
仲介業者にとっては負担が大きくなり、人件費など経費も掛かるため、不動産事業者が取り扱いたがらないという側面もある。終了型では、業者が早期成約で仲介手数料を得ようとするため、賃料の下げ圧力にもつながっている。
また、地方では、そうした不動産仲介・管理会社に睨まれたくないと考えるオーナーも少なくないようだ。東京ならば不動産会社は至るところにあるが、地方は違う。数少ない不動産屋に面倒くさがられると客付けが進まない、と定期借家を切り出しづらい。
横浜市でアパート10棟を保有し、約半分の32室を定期借家契約にしているH・Kさん。
「私も物件を新築してオーナーになった時、定期借家を導入したが地元の不動産仲介や賃貸管理会社からの抵抗が強かった。
例えば、募集賃料の査定をしてもらおうと、仲介大手を含めて5~6社にお願いしたが、定期借家だと賃料を安くしないとだめとか、定期借家は個人的な賃貸住宅には一般的には使いませんよ、などと言われ、地元で引き受けてくれるところがなかった」と話す。
インターネットで定期借家物件を管理している会社を探したところ、川崎市の仲介会社を見つけてお願いしたという。
横浜から川崎ではかなり離れており、地元以外の会社の客付けのため、地元仲介業者からの抵抗が収まらなかったと振り返り、こうした仲介会社の抵抗は、定期借家契約は面倒で手数料が取れないという無知からきていると指摘する。
仲介会社は、定期借家だと普通借家より相場を安くしないと客付けが進まないとの反応が多いが、H・Kさんは、「私の場合は、周辺相場よりも1万円ほど高い設定だが入居してもらっている。
そもそも一般入居者は普通借家と定期借家の区別が付いていないので、それを説明すれば物件に問題がなければ入居する。入居者の属性が定期借家と普通借家で違いが出るわけでもない。
最近は不動産業者も、定期借家でも入居してもらえると理解していて対応してくれるようになった」と話す。
実際、冒頭で紹介したアットホームの定期借家物件の調査でも、定期借家と普通借家の平均賃料を比べると、マンションと戸建ては定期借家が3万円弱高かった。東京23区を見ると、マンションは普通借家を 4 万円以上上回っている。
先述のとおり、定期借家にも2種類ある。それが終了型と再契約型。入居者にとっては2年間しか住めないものと、普通借家で更新できるものでは住まいの価値が違う。
それを考えると、終了型は家賃を下げるのは当然だが、再契約型の場合で賃料を下げる理由は見当たらない。
沖野代表は、定期借家契約の普及についてこう話す。
「これからマンションやアパートの老朽化が進む。建て替えや耐震補強という話になるだろう。そうすると、入居者にはいったん退去してもらわなければならないので、そこを契機に定期借家を導入することで普及が進むのではないか。
そういう意味では、老朽化物件を持っているオーナーであれば全国どこのオーナーでも定期借家を導入する意義はあるのかなと思う。また、日本には普通借家と定期借家の2つの契約形態があるので無理してすべて定期借家にすることもない」。
定期借家物件は、トラブルを起こす入居者の防止策としての効果に期待が集まる。大手不動産ポータルサイトでは、物件の紹介ページに定期借家物件とわかるように表示している。
トラブルをあちらこちらで起こす人は、定期借家のことも知っていて定借物件の表示のある部屋の内見には来ない抑止力を発揮する。
一方で優良な入居者を遠ざけてしまう結果もあり得る。定期借家契約の説明を読んで2年間で必ず退去しなければならないと思う人が少なくないからだ。
説明文に「再契約できる場合もある」という書き方をすると、なにも知らない人だと、「……場合もある」という文言では期間限定の印象が強く、物件を気に入ってもらっても内見に来ない可能性もある。あえて定借物件であることを表示しないポータルサイトもあるようだ。
健美家編集部(中野淳)