一般社団法人日本ホームステージング協会主催のコンテストの賃貸部門でグランプリを受賞し(2022年度)、同協会で公認アンバサダーを務めるホームステージャ―のうららさん。
自身も10棟104戸の大家であるうららさんは、地方の築古物件の空室に悩む大家の手助けになればと、大家が家賃1か月分の費用で始める実践的ホームステージングのノウハウをSNSなどで発信している。
単身物件のリビングをベッド、ファブリック、間接照明、フェイクグリーンなどのアイテムで演出し、購入費用は5万円程度の安さというから一見だ。
前編ではホームステージングの基本となる考え方や、見込める効果について紹介していく。
ホームステージングは物件の価値を高める空室対策のひとつ
「ホームステージングはただ空間を装飾するのではなく、物件の価値を高めて、生活するイメージを補足する空室対策のひとつです。設備や内装をどうリフォームするかといった空室対策の方法はたくさんあって、ちょっとずつミルフィーユのように重なってこれが空室対策になってきます。
セミナーなどにご参加いただく皆さんには、こうした全体像をお伝えしているんです」とホームステージャ―として活躍するうららさんは話す。
ホームステージングは中古住宅の流動性の高いアメリカで広まった。何もない中古住宅に家具を入れてモデルルーム風に演出したところ、内見時に生活のイメージが広がることから早期売却につながったのだ。
日本でも10年ほど前から中古住宅の売却時に取り入れられるようになり、ここ5年のほど間で都市部を中心に賃貸の空室対策にも浸透してきた。
これは前出の一般社団法人日本ホームステージング協会(2013年設立)が中心となってコンテストやホームステージャ―らの育成講座を開催し、賃貸物件におけるホームステージングの裾野を広げたことも大きい。
うららさん自身も夫との法人で地方に点在する10棟104戸の築古物件を所有する大家であり、かつては「地方×築古物件」での満室化することの難しさを感じていたという。
「夫が2018年頃から不動産投資を始めたものの、管理会社に丸投げで入居は決まらないし、夜逃げはされるし、物件前に粗大ゴミは置かれるし、と散々でした。
2020年に法人化して物件をさらに増やした頃、夫が物件購入を担当し、私は購入後の物件の空室をどう埋めて満室にしていくかということに特化して分業することにしたのです。それというのも私の人生を大きく変えるホームステージングとの出会いがあったからです」
子どもの頃から間取り図が好きでスクラップブックを作り、大人になってからも海外のインテリアの写真をPinterestで収集するのが趣味だったというほど、住まいやインテリアに関心のあったうららさん。
転機は2020年の冬。長らく仕事と2児の子育てを両立してきたうららさんは体調不良で入院してしまう。それまではうららさんの夫が主導して賃貸経営をしてきたが、法人化して夫婦二人三脚で不動産を事業として大きくしていこうとするタイミングだった。
「カタチになる何かを自分で作り出したかったんだよなぁ…」と自身の生き方を見つめ直す中で、「空室対策としてホームステージングというのがあるよ。どう?」という夫との会話を思い出したそうだ。
退院するなり、日本ホームステージング協会の認定資格であるホームステージャー2級と1級を取得。ホームステージングを自己所有物件の空室対策に取り入れたところ早期に満室となり、うららさんは確かな手ごたえを感じたという。
その後も大家仲間らの物件を満室にするための手伝いを重ねていった。試行錯誤して身に着けたホームステージングのノウハウをインスタグラムやnoteで発信し始めたところ、空室に悩む全国の大家らから相談が寄せられるようになった。
2022年には前出の日本ホームステージング協会のコンテストの賃貸部門でグランプリを受賞。セミナー講師としての登壇依頼の声も多くかかるようになった。ホームステージングはうららさんにとって大好きの詰まった天職だった。
調査ではホームステージングから「2か月までの成約」が90%弱
「正直、私がホームステージングをビジネスとして行うとしたら、家賃1か月分でのご提供はできません。けれども、私たち大家がホームステージングを理解して自ら行えば家賃1か月分でホームステージングができるのです。自分の手で所有物件を満室に導くことができたら、嬉しいですよね」と、うららさんは大家によるホームステージングの良さを説く。
大家が所有物件のセルフホームステージングを行うことで3つの効果が見込めるという。
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(1)空室期間の短期化
(2)家賃の下落をストップさせる
(3)基本のセットを揃えて、繰り返し使用すればコスパが良い
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(1)については「ホームステージング白書2022年」(出典:(一社)日本ホームステージング協会)の調査にも表れている。
賃貸物件におけるホームステージング後の成約までの平均期間を尋ねたところ、「1週間以内」が7%、「2週間以内」が9%、「1か月以内」が55%、「2か月以内」が17%と、設置から2か月以内での成約につながったという回答数が90%弱を占めていた。
同じく賃貸物件におけるホームステージング実施前と実施後で成約までの期間(下の図)は「大幅に短くなった」が34%、「少し短くなった」が45%とこちらも回答数の70%を超えている。
関東、関西、九州などの都市部で実施した回答者が多いという偏りはあるが、「ホームステージングの効果ってどうなの?」と半信半疑の人にとってもこれらの調査結果は一つの目安になるだろう。
(2)については、時々ホームステージングを取り入れて家賃をアップさせたという話も聞くが、「家賃の下落をストップさせる」という考え方のほうが適切だとうららさんは述べる。
「家賃をアップさせるとなると、そのときのマーケット調査が欠かせません。家賃を上げるためにホームステージングが有効かというとそこはよく考えないといけないと思います。新築時が家賃のMAXであれば経年して家賃をちょっと下げなきゃ決まらなくなることも出てきます。
とはいえ私たち投資家は融資の返済を抱えていますし、管理会社さんに言われて家賃を下げるのは最終手段。まずはホームステーングをすることによって家賃下落をストップさせましょうよ、ということなんです」
(3)については明日の後編で後述するが基本のアイテムを揃えて、退去後の部屋をホームステージングし満室化。退去のたびに繰り返しアイテムを使用することで、コスパはさらに良くなるという。
今は物件写真にCGの家具や小物を配置するバーチャルホームステージング(VR)も普及している。
うららさんが今回教えてくれるのは、空室に最低限の家具などを設置するリアルなホームステージングである。募集サイトでの閲覧数や問い合わせ件数を増やすだけでなく、「ここに住みたい!」と内見時に入居見込み者の心を一気につかむことができるのもリアルなホームステージングの良さだという。
ただ、空室をモデルルームのように演出すると聞いても「インテリアのセンスがないとできないのでは?」などと感じる人もいるだろう。
「基本を押さえれば初心者の方でも簡単にできます。私が試行錯誤する中で、大家が賃貸物件のホームステージングをするにあたって外せないと考えた最低7つのアイテムがあります。まずは以下の『7つの神器』を取り入れてみましょう」と、うららさんは話す。
(1)段ボールベッドとカバー布
(2)ローテ―ブル
(3)間接照明
(4)クッション3つ
(5)フェイクグリーン
(6)ラグカーペット
(7)レースカーテン
明日の後編ではこの『7つの神器』を使用したホームステージングの事例を紹介していく。
執筆:
(すどうみき)