7月3日に熱海で大規模な土石流があり、多くの家屋が巻き込まれ、犠牲者がでています。
土石流の起点の山の斜面付近では、大量の盛り土がされていました。そこより下流は、しばらく山林が続いています。
被害に遭われた方々は、このような事態になることをきっと、想定されていなかったでしょう。
写真:静岡県
地球温暖化の影響からか、近年想定外の水害が増えつつあります。今回起きたのは山林で、自分達には関係ないよと思う大家さんも多いかもしれません。しかし、実は身近にも似たようなリスクがあります。
■ 東京23区内にもある土砂災害警戒区域と土砂災害特別警戒区域
私は現在、東京都区内をメインに不動産投資をしていますが、過去には東北や四国にも物件を持っていました。また、銀行員時代は名古屋に赴任し、中部地方の担保物件の現地調査等をしていました。それらを通じて、いろいろなエリアのリスクのある宅地を見てきました。
日本の国土は、平地が少なく、山や丘陵地を切り拓いて宅地造成してきました。これは致し方ないことです。ただ、今後は人口減少により、インフラ整備に廻す予算が限られ、防災上見限られる地域も増えてくることが予測されます。これまで以上に注意が必要ということです。
( 東京都ウェブサイトより )
上記の図は、東京都の「 土砂災害警戒区域等マップ 」です。細かくて見づらいですが、黄色箇所が土砂災害警戒区域、赤色箇所が土砂災害特別警戒区域です。東京23区内にも点在していることがわかります。
都区内で点在している箇所は、武蔵野台地の東端辺りで、昔は海だったエリアとの境や川に台地が削られて急斜面になつている所が多いです。
図の左側は黄色や赤色のエリアが特に多いですね。この辺りは主に多摩丘陵エリアです。多摩丘陵は、高尾山麓を西端とし、町田市、横浜市にかけて広がる丘陵で、三浦半島の丘陵と地形的につながっています。
上記は東京都の図ですので、神奈川県の土砂災害警戒区域、土砂災害特別警戒区域は表示されていませんが、実際には繋がっています。神奈川については、コラム第121話に宅地造成工事規制区域図が掲載されているので、それを参考にしていただければと思います。
参照:第121話「 その不動産は買ってはいけない。擁壁のリスクを知っていますか?」
単に丘陵地帯と言ってもピンとこない方も多いでしょう。想像しやすいように例をあげると、スタジオジブリの「 平成狸合戦ぽんぽこ 」では、この丘陵が舞台となり、自然豊かな山林が多摩ニュータウンに開発されていく状況を映像化しています。
このエリアは関東ローム層といって、富士山等の火山からの火山灰が永年降り積もってできています。関東ローム層の土は、団粒構造で宅地の地盤としては良好ですが、掘削などの振動によって団粒構造が破壊されると軟質な土に変わります。
地質は違いますが、大地震の時の地盤液状化現象を思い出してください。丘陵地を切り拓いてますから、近隣でも盛り土と切り土が生まれます。山や丘陵地には、同じエリアに災害に弱い場所と強い場所があることを認識してほしいと思います。
■ 土砂災害警戒区域、土砂災害特別警戒区域とは何か
先に具体的なエリアを示しましたが、土砂災害警戒区域、そして土砂災害特別警戒区域とはどういうものなのでしょう。
土砂災害警戒区域とは、土砂災害による被害を防止・軽減するために、危険の周知・警戒避難体制の整備を行うエリアです。そして土砂災害特別警戒区域とは、その中でも危険性が高く、特定の開発行為を許可制とするなどの制限や建築物の構造規制等を行うエリアです。
以下のような3つのリスクがある場所が指定されます。
1. 土石流
( 国土交通省ウェブサイトより )
※今回の熱海土石流でも被災地域は土砂災害特別警戒区域・土砂災害警戒区域でした。
2. 地滑り
( 国土交通省ウェブサイトより )
3. 急傾斜地の崩壊
( 国土交通省ウェブサイトより )
※先月の大阪市西成区の住宅2棟が崩落した件が当て嵌まりそうですが、実際には西成区住宅崩落現場は土砂災害警戒区域ではなかったようです。
こうした警戒区域は、国土交通省によると全国で66万か所あり、そこに150万戸程度の家屋が建っているとのことです。また、市街地に限っても92万戸程になるそうです。
■ 住民や行政の反対で「 土砂災害特別警戒区域への指定 」が遅れる理由
土砂災害警戒区域指定の根拠となる「 土砂災害防止法 」は平成12年に公布されていますが、地元の住民や市町村レベルの行政の反対により指定が遅れているエリアは少なくありません。それは、土砂災害特別警戒区域に指定されると、下記図のような制限や規制が掛かるからです。
1. 特定開発行為の制限
2. 建築物の構造規制
3. 建築物の移転等の勧告
住んでいる方の安全を守るためとはいえ、厳しい規制です。自己所有の住民は、風評での資産価値の下落を懸念します。また、今住んでいる家を建替えや増改築しようとしても、想定される土砂の衝撃に耐え得る擁壁や建物自体の構造強化などで多大なコストが掛かることもあります。
しかし、土砂災害警戒区域等の指定はその土地が本来持っている性質( 危険性 )を明確にするためのもので、指定に対する行政からの経済的な補償はありません。
■ 「 土砂災害特別警戒区域 」の収益物件を買った大家の責任とは?
仮に、土砂災害特別警戒区域の物件を、安くて表面利回りが高いからと取得して賃貸するとします。先祖代々自宅として住んでいる方々と異なり、我々大家は、コストが掛かるといっても対策を打たないわけにはいきません。入居者や近隣への責任があります。
コラム第121話の最後のほうで書きましたが、取得した時に知らなかったり大丈夫だったりしても、その後の維持管理を疎かにしていると民事・刑事で責任を問われる可能性があります。
ことは賃貸住宅にとどまりません。不動産投資家の中には太陽光発電施設を所有されている方も多く見受けられます。それらの施設の設置場所には、山林や丘陵地を切り拓き盛り土している所もあります。今回の熱海土砂災害の起点と同様に宅地として造成していないので、排水施設等が不十分な場所もあるかもしれません。
今回の熱海の件が発端となり、新たに排水設備の増強や擁壁等の設置などが、今後法制化により義務付けられる可能性があります。
今後も地球温暖化により、水害リスクは増えていくことでしょう。それに対し、備える損害保険料は上がりつつあります。将来のコストやリスク増を自分なりに予測して、責任もって投資判断していきましょう。