■増える災害リスクと
メンテナンス
2024年は、年初から能登半島地震や、北九州市では小倉駅近くの有名な食堂街が火災に見舞われた。
大雨や洪水のリスクも全国各地で年々増し、オーナーとして快適な住環境を継続的に提供できる責務を維持することが難しくなっている地域もある。
このような突発的な災害に対しては確実な準備が難しいが、日常的に賃貸住宅で安全・快適に生活をしていただくためにできることはある。それは、管理会社やオーナーが建物の維持管理に関する知識を向上し、事前にトラブルになりやすい箇所を予防すること、そしてトラブルが起こったときに迅速に対応することである。
アパートやマンションは、築年数が浅いものであればあまり問題は起こらないが、築年数が経過することで設備面でのトラブルが起きやすい。
ある時、「入居者から設備面での不具合が起こった」と管理会社より連絡があり、修繕のために必要な見積もりとともに早急に手配が必要と伝えられ、内容は理解できなくとも言われるがまま修繕を依頼をしなければならない…こんなことを経験したことがあるオーナーもいるはずだ。
しっかりと内容を理解できていれば、無駄な出費を抑えて最適な指示を出せる可能性も高いが、不動産オーナーは管理会社に任せっぱなしで、設備面のメンテナンスに関しての情報を苦手とする人が多いのではないだろうか。
■「賃貸住宅メンテナンス主任者」制度で
専門の知識を得る
2023年11月、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会より「賃貸住宅メンテナンス主任者」の認定制度が発足した。
この制度は、近年、賃貸住宅の建物維持管理に関するトラブルをニュースなどで目にする中で、管理会社もオーナーももっと建物のことを知り、入居者に対して安心な住宅を提供する責務を全うしてほしいという思いから創設された。
初年度で1000人程度の認定者を輩出する予定とのことであるが、筆者の周りの業界関係者はすでに予想以上の人数が取得済みだ。
学習できるプログラムは、実務者が監修し現場に即した学習範囲となっており、公式テキストと講習動画で以下の内容を学習することができる。
- 賃貸住宅のメンテナンスの重要性
- 建物・設備の基礎知識
- 修繕対応から学ぶ設備の基礎知識(給排水設備、ガス・電気設備、雨漏り)
- 消防設備の基礎知識
- 外部改修工事の基礎知識
- 巡回点検業務のチェックポイント
- 法令点検とコンプライアンス
- 原状回復工事
■資格認定までの流れ
資格認定を受けるための受験の流れは下記のようになっている。
STEP1
受験の申込
STEP2
受験料の支払い
※受験料お支払後、2週間程度でテキストが到着。
STEP3
各自のペースで学習を開始(テキスト学習と講習動画視聴)
STEP4
オンライン試験
STEP5
合格発表
STEP6
マイページから認定証(証書・カードタイプ)を取得
受験の申込みと受験料を支払ったのち、自宅にテキストが届く。その後、テキストや動画などを通じて自分のペースで自主学習を進めていく。ある程度学習したところで、いよいよ試験を受けるのだが、試験はIBT試験(インターネット試験)で、好きな時に受験ができる。
100問の正誤問題を120分で解くのだが、合否に関しては、試験終了後に即時開示される。なお、不合格であっても、受講料を支払ってから3ヶ月以内であれば何度も受験することが可能であるため、合格するまでトライできる。受験料は9900円(税込)で、テキスト・動画・受験費用が含まれているため、知識を得ることができるだけでも価値が高い。
さらに、このテキストは賃貸住宅管理の実務に即した内容で、非常に分かりやすく体系化されているため、オーナーとしては手元に置いておくだけでも、非常に価値が高いのではないだろうか。
さらに資格取得後には、LINEのAIチャットを使うことができ、LINE上でメンテナンスに関する質問をすると、テキストの内容に沿った内容でAIが回答してくれる機能を無料で利用することができる。
■たった3ヶ月で
13000人を超える申込みが殺到
「賃貸住宅メンテナンス主任者」制度は2023年11月6日にリリースをしたが、当初は2024年3月末までの5ヶ月で1,000名程度の資格取得者を予想していた。
ところが、2024年1月22日時点で、すでに13,388人からの申込みが入り、有資格者は10099人とかなりのスピードで取得者が増えている。
資格取得者は管理会社の従業員が多数であるが、不動産オーナーや関連するメンテナンス業者からの取得も多いという。
この資格を担当している、日本賃貸住宅管理協会 事務局によると「当初の想定よりも、たくさんの人にこの資格取得をしていただけることは大変喜ばしく思います。不動産管理業者だけでなく不動産オーナーにもメンテナンスの重要性をさらに知っていただきたいです。」というコメントであった。
株式や投資信託などの投資とは違い、実物の不動産投資は建物や設備の良し悪しが収益を左右することになる。
入居者に安全・快適に住んでいただくことが、不動産収益の維持のためには最重要であることを今一度認識し、オーナーや管理会社の知識強化をすることは、費用以上の収益を生み出すことになるはずだ。
執筆:
(いまいもとつぐ)