一般社団法人日本ホームステージング協会主催のコンテストの賃貸部門グランプリを受賞し(2022年度)、同協会で公認アンバサダーを務めるホームステージャ―のうららさん。自身も10棟104戸の大家であるうららさんは地方の築古物件の空室に悩む大家の手助けになればと、大家が家賃1か月分の費用で始める実践的ホームステージングのノウハウをSNSなどで発信している。
前編では「ホームステージングとは何なのか」という基本の考え方を紹介した。今回はうららさんが試行錯誤を続けて確立した7つのアイテムを取り入れた事例を紹介していく。この基本形を覚えれば、インテリアのセンスに自信がないという人も魅力的に空室を演出できるはずだ。
問い合わせ0件だった単身物件、ホームステージングから2週間で成約
前編のおさらいとして、大家が所有物件にホームステージングをするにあって最低限揃えたい7つのアイテムがあるとお伝えした。ここでうららさんがオススメする『7つの神器』をもう一度紹介したい。
次の写真はオーナーから依頼を受けて『7つの神器』を取り入れた岡山市の単身アパートでの事例だ。室内には①~➆のアイテムがすべて収まっていることが分かると思う。特にベッド、ラグとローテーブルの設置により、どこで寝食できそうか。入居後の生活のイメージをしやすくなった。
ちなみに上の写真の『7つの神器』はニトリやIKEAなどの量販店で揃えたものだ。一つ一つは安価でも色や素材の統一感を持たせることであか抜けた空間に変えることができる。
このホームステージングにかかった費用はトイレ、バスルーム、キッチンなど部屋全体をホームステージングし全36品を揃えて合計4万8,772円(購入時の価格)である。
値段を聞いて、思ったよりも安い!と感じた人は多いのではないだろうか。ベッド&マルチカバー、床のラグ、ローテーブル、フェイクグリーン、クッション3つ、小物などを揃えても家賃1か月分の5万円程度に収まる。ホームステージング初心者にとっても挑戦しやすい金額だ。
もっとも前提として、ただモノを雑多に並べるだけでは入居申し込みには結びつかない。空室が続いている理由や競合との比較といった課題の洗い出しは必要となり、さらには新たに取り込めるのはどんな属性の人なのか、どんな人に入居してもらいたいのかなどを考え、ターゲットを再設定することになる。
「このアパートは日用雑貨や外食チェーン店のある国道沿いから近く、坂道が続く閑静な住宅街に立地する単身物件で、大学生や留学生、社会人と幅広い層が入居していました。周辺環境の詳細を把握した上で、性別は問わず20代のアンニュイな雰囲気が好きな方をターゲットにしてお部屋を演出しました。これまで1件も問い合わせのなかったお部屋でしたが、ホームステージングをして2週間でベトナムからの留学生の女性の入居が決まりました」
これまでに1件も問い合わせのなかった部屋で、繁忙期も過ぎていたという。にもかかわらず2週間で入居がついたというから、ホームステージングを用いた空室対策の結果といえそうだ。
寝床の提案がシングルの心をつかむ 「段ボールベッド」で保管も楽々
単身向け物件のホームステージングでうららさんが特にオススメしたいのが「段ボールベッドとカバー布」の購入だという。
「私も20代で初めてお仕事をした頃を思いだすと、毎日22時帰宅は当たり前で、家に着くなり今すぐ眠りたい!っていう感じでした。最近はリモートワークも多くなりましたが、変わらないのは『睡眠』を取ることです。内見時のお客様は家具の配置をイメージしながら見ていますから、サイズ感がお部屋の床面積の中で大きいインテリアのベッドを置くことで寝るスペースのイメージが広がりやすいと思います」
段ボールベッドといってもうららさんが使用するのは災害時用のもので耐久性もあって、うららさんによれば内見時に腰をかける程度では壊れないそうだ。
「もともとエアーベッドを使用していましたが、ステージングを行ってパーフェクトな状態で管理会社さんに写真撮影をお願いしたところ、空気が抜けたエアーベッドの写真を見せられました。高価なエアーベッドではなかったからでしょう。複数回使う中で空気が抜けたり穴が開いたりしまうことがあるのです。そのため今は段ボールベッドにマルチカバーをつけて使用しています。
内見時にお客様が座ったり、寝そべったりされても基本的に壊れませんし、無事に入居が決まって撤収する際も畳めば大きめのスーツケースを縦に2つ重ねたサイズくらいなので自宅保管も楽です」
ホームステージャ―であるうららさんは多数のステージングアイテムを所有するが、保管場所は畳1畳分で済んでいるという。『7つの神器』内で紹介したものでいうと、畳んで収納できる段ボールベッドや脚の外せるローテーブルなどがそうだ。うららさんが試行錯誤の上で収納方法においてもオススメできると考えたアイテムである。
60代が暮らす1Kに20代を呼び込む、5万円で入居者若返り作戦
上級編としてうららさんの法人で所有していた「地方×築古物件」での事例を紹介したい。下の写真は男性をターゲットにした単身向けの演出で、日本ホームステージング協会のコンテストの賃貸部門でグランプリを受賞した。
上の写真は1K.29㎡の単身向け物件のビフォー、アフターである。購入時に6戸中3戸が空室だった。日当たりが悪いわけではないのに室内はどんより暗く、下収納スペースの上段にいたってはどのように活用して生活をしたら良いかが分かりにくかった。
前のオーナーは3戸の空室を少なくとも1年以上放置した末、売りに出しており家賃は地域最安値の家賃2万6000円。入居中の3人は男性で、60代前後とやや高齢であるという課題も見えてきた。車移動が欠かせず、工場なども多いといった周辺環境をリサーチし、ターゲットを再設定していった。
「ホームステージングのちょっと良いところとして、若返りを狙える点にあります。長く住んでいただくためにも、今回は20代や30代の男性をターゲットとし、寝ながら動画を観てくつろげるおこもり感のある空間をイメージして配色や小物を決めていきました」
このホームステージングをしたところ、1か月後に20代の社会人男性、2か月後には30代の社会人男性が入居した。内見の末、即決で入居が決まり、家賃5,000円アップ、入居者の若返りにも成功。残り1戸の入居募集をするタイミングで買い手が見つかり、売却となったそうだ。
この空間のホームステージング費用は4万7,250円(私物の洋服などは除く)。
5万円以内で見違えるほど空間の第一印象が変わった(費用の内訳は以下のとおり)。
「最初に家賃1か月分の初期投資はかかりますが、基本の7つの神器を揃えていただければ別の物件にも応用できます(下の写真)」
◆別の単身物件での事例(下の写真)
SNSでノウハウ発信、仲間と一緒にホームステージングを普及させたい
こうしたおしゃれで安価なホームステージングのノウハウをインスタグラムやnoteで無料公開しているうららさん。
「ただホームステージングが好きな大家では終わりたくないという思いがあって、仲間と一緒にホームステージングを盛り上げていきたいと考えています。正直、大家としては競合が増えますからノウハウが広がってほしくない部分はありますが、空室で困っていたお部屋に入居がついて喜んでくれる大家さんがいる限り、私はこうした活動をする意味がありますし、喜びも大きいです」
月に1回ほどのペースでうららさんが講師の「大家による超実践ホームステージングfor Beginners(有料)」を実施。毎回6名の参加者に向けて講義し、後日フィードバック会も行うなどフォローも手厚い。「大家業に対してポジティブに取り組む仲間が増えていくことが何よりも楽しい」とうららさんは語る。
なお、今回はホームステージングの基本形を伝えたく単身物件の事例を紹介した。
シングルでの基本のホームステージングを身に着ければ、ファミリー物件のステージングにも十分対応できるとのことだ。
■湯上うららさんプロフィール
10棟104戸の賃貸物件の大家。リクルート社での営業、スペイン語教室の運営を経た後、夫と二人三脚で不動産賃貸業に携わる中でホームステージングに出会う。一般社団法人日本ホームステージング協会の公認アンバサダー&講師を務める。3年間で50戸を満室にしてきた現場経験をもとにセミナーや現地体験会などを大家や管理会社向けに実施。成功事例だけでなく失敗事例も包み隠さず公開するうららさんのホームステージング術が分かるサイトはこちら。2024年1月から新たにステージングに特化した法人を設立し、「(株)Urara Home Staging」を展開していく予定
執筆:
(すどうみき)