このコラムは4月末に書いているのですが、4月29日に34年ぶりに一時1ドル160円の大台を突破しました。昨年末には1ドル140円を割ろうかというところまで円高が進んだのが遠い昔のようです。
今年になって大幅に円安ドル高になった主因は、日本が3月にマイナス金利を解除したとはいえ、政策金利はほぼ据え置かれ、更には当面上がる見込みがないのに対し、アメリカはインフレが落ち着かず、政策金利の引き下げが遅れそうな気配だからです。
日米の金利差が縮まらないどころか拡大していることから円安が進みました。今後1ドル160円台近辺が維持されるのかはわかりませんが、当分の間、円安傾向が続きそうです。
今回は、この円安を主因として今のトレンドが不動産マーケットにどう影響するか私見を述べます。
■建築費の高騰
円安は建築費の高騰につながります。
その要因は大きく分けて二つ。
一つは、輸入している資材・設備やエネルギー価格の上昇。
特に原油価格の上昇は、プラスチックや樹脂素材等の原料・発電・トラック等の物流の燃料など国内での生産活動にも多岐にわたって影響します。
もう一つは、人件費・労務費の上昇。
建設業は、労働条件が厳しく、若手から敬遠され、現場労働者の高齢化・人手不足が進行しています。更にこの状況に2024年問題が追い打ちをかけています。
建設業・運送業共に5年間猶予されてきた、働き方改革関連法による時間外労働の上限規制が、この4月から適用されました。建設業の場合は、原則として時間外労働の上限は、月45時間・年360時間となります。
また、臨時的な特別の事情があって労使が合意した場合でも、時間外労働は年720時間以内、時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満など、細かく上限時間等が定められています。建設、そしてそれを支える物流の人手不足が更にひっ迫し、人件費増につながります。
2024年問題は、今に始まったわけではなく、数年前から建設業界の懸案事項でした。国や業界も、ただ手をこまねいていたわけではありません。
2018年に「特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針について」の閣議決定を行い、人手不足の建設業界を「外国人による人材確保を認める特定産業分野」であると認めたうえで、人材を確保する対策をしていました。それもあって外国人労働者は増え続けています。
ただ、外国人労働者が欲しいのは日本だけではありません。一部では世界各国で争奪戦になっています。諸外国ではなく日本に来てもらうには、就労条件、特に賃金をよくしなければなりません。
外国人労働者は賃金を主にドル換算で考えますので、円安ドル高が進めば円建ての賃金は上昇することになります。
■建設会社倒産増加
急な原材料費や人件費の高騰は、建設会社の収益を圧迫します。公共工事では、物価や賃金の水準に変動があれば、発注者、受注者が相互に請負代金の変更を請求できる規定があります。
これに対し、民間の工事では同様のルールが契約に盛り込まれず、価格転嫁が認めらないことが多いです。ただ、私達施主の立場からすると、手元資金カツカツで銀行からの融資により資金計画を立てていることが多いので、おいそれと価格転嫁を受け入れることができないのも事実です。
ここ最近、賃貸マンション建設を得意とするユービーエムや暁建設が倒産しています。
低価格での受注や急激な業容拡大に内部体制の構築が追い付かなかったことが倒産の主因とされています。ここ最近の資材価格の高騰や人手不足を読み切れなかったのでしょう。
ただ、RC(鉄筋コンクリート)のマンション建設は規模によっては工事請負契約締結から竣工まで数年かかります。
スーパーゼネコンの清水建設ですら、2024年3月期単体決算で、営業損益の見通しを2023年5月に公表した期初予想から885億円下方修正し、575億円の赤字と見込んでいます。
同社の経理部長は、「当然、赤字で受注していたわけではなく、工期についても受注時は適正と考えていた」と発言しているように、大手・中小、きっちり・杜撰関係無く、ここ最近の原価高騰の影響を受けています。
私もコロナ禍前に、投資家仲間の物件を内見したことがあります。物件自体も建てた建築会社の社長もしっかりしていた感がありました。しかしながら、その会社も今年になって倒産しました。
コロナ禍対策のいわゆる「ゼロゼロ融資」の返済が最後のピークを迎えています。当面は建築費の高騰だけではなく、建設会社の状況にも注意しなければなりません。
■急がばまわれ
私も小規模ですが、新築用に東京23区内に土地を自己資金で仕込んでいます。昨年後半にRCマンションを建築しようと見積もりを取ったのですが、自分の見込んでいた収益が見込めないので、現在は保留にしています。
大規模事業者でも同様の動きがあります。私は銀行員時代に名古屋の三越栄店が入居している建物内の支店にいたことがあります。昨年夏に、その三越と銀行支店が入居しているビルの建て替え計画が一時凍結することが報道されました。
その理由の一つが建築費の高騰です。栄の三越がある場所は名古屋の商業地としては一等地です。そのような土地の価値が高い所でも、建築を保留するほどです。
今は無理に新築するのではなく、建築費や建設業界の動向を注視するのも一案と考えます。また、新築コストが高い現状では、少々高めと感じても築浅物件を狙うのも一案でしょう。