広島県沖に浮かぶ瀬戸内海で4番目に大きな島
江田島市は、広島県西部の瀬戸内海島嶼部に位置する市。江田島、能美島を含めた9つの島からなり、瀬戸内海の中では4番目の大きさを誇る。
旧海軍兵学校や旧陸軍砲台跡など、戦跡レガシーが数多く残っている一方で、瀬戸内海有数の夕陽スポットとしも人気が高い。
サイクリングやトレッキング、カヤックなどアアウトドアも盛んだ。観光業に加え農業や水産業も主産業であり、柑橘類やオリーブ、牡蠣、ちりめんなどが特産物として知られる。
そんな同市では、雇用の創出や交流人口の拡大・地域経済の活性化といった地域振興を目的とした、新たなプロジェクトが始まろうとしている。それが、旧ユウホウ紡績工場跡地・社宅跡地の利活用者の公募だ。
ユウホウは大阪市に拠点を構える紡績会社で、創業130年を超える業界老舗メーカーだ。かつては江田島市で能美工場を操業していが、2013年10月に閉鎖。2017年に呉市の海運会社リベラがユウホウから土地を購入し、2021年に「地域活性化や魅力発信に役立ててほしい」という理由で、江田島市に寄付していた。
対象となるのは江田島と倉橋島(呉市)を結ぶ早瀬大橋から北西2㎞の国道487号線沿いにある、工場・社宅跡地の更地。広さは2つを合わせて約4.8haだ。市は工場跡地と社宅跡地の全域を購入もしくは賃借することを前提にしており、最低売買価格は5140万円、最低賃料は年750万円としている。
人口減少に歯止めをかける事業として注目
2023年12月20日から参加表明書の受付を始め、今年11月8日から12月27日が企画提案書の受付期間。企画提案者は営利・非営利、法人・個人の別を問わず、複数社のグループでも構わないとしている。
その後、2025年1月23日にプレゼンテーションを行い、同年2月下旬に優先交渉権を決める。優先交渉者は5月下旬までに市と売買または事業用地定期借地の仮契約を結び、6月に市議会で議決されると仮契約が本契約へと移行する流れだ。
江田島市ではIT企業の転入、新たな工場の立地などが続いている一方で、市の全域が過疎地域に指定されており、年間約500人の人口減少が継続している。
実際のところ、市の総人口は合併後最初の国勢調査実施年である2005年の2万9939人をピークに減少に転じ、直近の人口は2万967人。このままでは2万人割れする可能性があり、国立社会保障・人口問題研究所も2045年には総人口が1万774人になると推計しているほどだ。
こうした状況を受け、江田島市では基本的な課題として「少子高齢化に対応した都市づくり」「産業の活性化と就業機会の確保」を掲げたうえで、地域を盛り上げるまちづくりを推進している。今回の事業はその一環であり、もっとも地域振興に資する企画が選ばれるだろう。
工場や社宅跡地などの大規模遊休不動産を活用し、地域のニーズに合わせたまちづくりは各地で進められている。
日本製鉄グループに属する日鉄興和不動産であれば、兵庫県姫路市の広畑製鉄所の社宅跡地や福岡県北九州市の八幡製鉄所の社宅跡地などで再開発事業を実施。コンパクトシティの形成やサステナブルなまちづくりに貢献している。
民間が主導する場合もあれば、江田島市のように自治体が推進する事業も少なくない。埼玉県さいたま市の宮原地区では、民間の大規模工場の移転をきっかけに、職・住・遊・学が複合した市北部の拠点としてのまちづくりを進めた実績があり、東京都日野市でも社宅跡地を活用した住宅開発を実施するなど、事例は豊富にある。
2023年7月には中部電力グループが愛知県春日井市の大規模社宅「神領アパート」の跡地を活用し、分譲戸建て住宅を中心に商業、医療、教育関連施設を整備することを発表した。2026年度以降のまちびらきを目指している。
景気や産業の変化により、工場や社宅が閉鎖されることは珍しくない。放置しておくと地域経済は衰退に向かうだけで、新たなる活用が求められる。
いまやタワーマンションがひしめく東京のベイエリア、神奈川県川崎市の武蔵小杉エリアなども、もともとは工場があった場所。うまく転用することで、息を吹き返すことがわかっている。
地域によって施設需要は異なるので住宅や商業・観光施設など、ニーズに合わせた再開発がポイントであるのは言うまでもない。
健美家編集部(協力:
(おしょうだにしげはる))