差別化という言葉がある。ビジネスに関わっている人はもちろん、今どき、この言葉を知らない人はほぼいないだろう。だが、実際の現場で考えた時、本当に差別化できている商品、物件はどのくらいあるだろう。
今回、柏市豊四季にある新築メゾネット賃貸住宅a*(以下エースター。銀河系の中心にあるモンスター級の巨大ブラックホールにちなむ)を見学して考えてしまった。それほどに徹底的に他と違うのがエースターという物件である。
2代目が作る2軒目の超個性派賃貸
2019年年末に柏市豊四季を訪れた。東武野田線で柏駅と流山おおたかの森の駅の間にある、両駅に比べると繁華とは言い難いまちである。
訪問の目的はボルダリングウォールのある部屋、陶芸ができる部屋、防音室その他9戸全戸が異なるコンセプトを持った賃貸住宅ガルガンチュアを見学するためだ。そして2024年1月、再び、豊四季を訪れた。今度もまた、住戸ごとに異なるコンセプトのある賃貸住宅エースターを見学するためである。
出迎えてくれた有限会社奥宮園の奥山羊太さんは車関係の仕事を経て大家業を継いだ二代目。初めて建てた物件がガルガンチュアだ。同物件については過去に記事を書いているので参考にしていただきたいが、今回もまた、それを超えるような圧倒的に他と違う物件が作られていた。
5戸それぞれに異なる強烈な特徴を備えているのである。どんな部屋があるのか、見ていこう。
ベンツの最上級車マイバッハが2台置ける屋内ガレージ
比較的個性としてはおとなしめなのが001号室で、1階に45.89㎡のガレージがある。シャッター幅は6m、奥行き芯々で6.5m、幅も同様に7mあり、一般的なガレージハウスに比べてもかなり広い。
売り文句は「マイバッハが2台置ける広さのガレージ」とあり、メルセデス・ベンツの最上級車であるマイバッハ(全長5470mmで通常のSクラスより290㎜長い。全幅は1920㎜)をゆったり2台置ける。
他の住戸は屋外の平置き駐車場が2台賃料に含まれているが、001号室は屋内に2台分あるため、屋外は1台だけ。それでも合計3台分置ける。
全住戸、1階、2階にトイレがあり、この住戸も1階はガレージのみだがトイレは設置されている。車をいじっている最中で土足でトイレにということも可能なのである。ガレージ内にはEV充電設備、水栓も用意されている。
乗用車の生産台数は減少傾向にあり、車離れとよく言われるが、その一方で仲介会社の人たちに聞くと所有している人達は大型車を所有していることが多く、複数台持っている人も少なくない。
都市部では省スペースのため、機械式の立体駐車場を備えた物件は増えているが、そうした物件では入らない大型車を所有している場合、まずは車優先で探すことになるのだとか。そうした人たちに情報を届けられたらエースターは人気物件になるに違いない。
2階の住居部分は15.3畳のリビングと7.2畳の寝室がある1LDKで住宅としては意外にコンパクト。車好きの人のセカンドハウスなどとしても良さそうである。賃料は31万5000円。
2階リビングから愛車を眺めて暮らす
車好きにはもう1戸、005号室がアピールするだろう。
こちらは1階にカーリフトが設置されており、車を載せて上昇させると2階のリビングから窓越しに愛車を眺められるようになっている。自動車整備工場で使われている一般的なカーリフトは作業に必要な1.8mほどまでしか上昇しないが、005号室の設置されているアメリカ製の4柱リフト BendPak HD-7PXWであれば3.6mまで上昇。リビングに居ながらにして愛車のホイールやキャリパー(ブレーキパッドの動きを制御する部品。ホイールの隙間から確認することができる)を眺められる。
当然(!)、2階リビングの窓はリフトで上がって来る車の全貌が見える高さになっており、横から、おしり側から車を眺められる。本当は側面を全部窓にしたかったそうだが、建物の構造上できなかったとか。それでも現場で見ると車のない状態でも十分にインパクトがある。
居住部分としては2階に18.8畳のリビングと1階に8.5畳の寝室があり、間取りとしては1SLDKになる。賃料は34万8000円。駐車場は2台分あり、プラス車の入れ替えのための転回スペースとして住戸前に十分な広さが取られている。
100インチのスクリーンで映画を楽しむシアタールーム
002号室には12畳のシアタールームがある。2枚の重い鉄扉の向こうは施工した積水ハウスの注文住宅の防音室のうちで一番グレードの高い部屋となっており、80㏈までは1日中OK。9時~21時までは90㏈も可能で、映画好き、音楽好きにとっては理想的といっても良い環境だろう。
もちろん、部屋そのもののグレードが高いだけでなく、シアタールーム内の設備もこだわりにこだわった品揃い。物件ホームページを見るとどこのどんな製品が使われているかが細かく書かれているが、聞いて驚くのはその価格。
プロジェクターは100万円近く、特殊は塗料を塗布した張込み式スクリーンは50万円近くとか。特にスクリーンは触ると塗料が落ちてしまうため、ペットなどの入室を禁止しているほどだ。
002号室は2階に5.5畳、6.5畳の個室がある2LDKでLDKは13.3畳。賃料は29万8000円となっている。
国内2例目、プロ仕様のゴルフシュミレーター付き
1階に15.7畳ものゴルフシュミレーターがあるのが004号室。これが国内2例目だが、1例目はガルガンチュア。しかも、ガルガンチュアではプロゴルファーが入居しており、ゴルフボールが天井に当たることがあるからと004号室ではガルガンチュアの2800㎜に対し、こちらは3000mmと天井が高くなっている。
また、音が聞こえないように防音室仕様にもなっている。普通の人が打っている分には外に聞こえるほどの音にはならないが、プロが打つと時間帯によっては周囲に聞こえることもあるそうだ。
自分で使うのはもちろん、回数に常識的な制限はあるものの、レッスンなどに使うこともできる。シアタールームも同様で、その意味ではこれらの2住戸は借りて稼ぐこともできる住宅ともいえる。
住居部分は2階に7.5畳、5.4畳の個室、13.3畳のLDKがある2LDKで賃料は35万4000円。
高さ5.3mの吹き抜けに大きな書棚
残りの一部屋、003号室は1階が25.3畳のリビングとなっており、その中央に高さ5.3mもの作り付けの書棚が用意されている。その脇にはシースルーの階段があり、絵にもなり、かつ実用的に書棚が使いやすくもなるようになっている。
幅のある書棚なので写真集、画集のような大型の書籍を置くにも十分。どこにどの本を置いてもすべてが見えるので探しやすいのも特徴だ。そして、実はこの書棚、約500万円ほどと004号室のゴルフシュミレーターほどの金額がかかったという。職人にすべて作業してもらったため、それが高くついた。
この住戸では2階の書棚に面した部分にカウンターのあるホールが用意されており、仕事スペースとして使うことができる。愛蔵書を見下ろしながら仕事をするといえば原稿や漫画などを描く人が想定できるが、奥山さんは漫画家さんに借りてもらえたらよいのにと考えているそうだ。
こちらは2階に7.4畳、7.5畳の個室がある2LDKで、間取り的には2階にインナーバルコニーがある。外なのに室内というような空間だ。賃料は29万6000円。
住宅そのものの品質もハイレベル
ここまで各戸の特徴的な部分をご紹介してきたが、それ以外のレベルも高い。建物自体は積水ハウスのシャーメゾン、軽量鉄骨造だが、耐震等級は3、BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)では最高等級などとなっており、今後、住宅の性能に対する規制が厳しくなってもゆうゆうクリアできる状態になっている。
また、防犯合わせペアガラスを採用、隣地にあるフットサルコートに配慮して音が聞こえないよう二重サッシを使ってもいる。
各戸に専用ガス乾燥機を配しており、これは奥山さん自身が使っていて性能の良さを実感しているからとのこと。屋上には各戸専用ソーラーパネルが設置されており、余剰売電量は入居者に還元される。
全戸100㎡を超す広さがあるが、部屋数は1LDK~2LDKとゆったり使えるようになっているのも特徴。特にランドリールームが広いのは他にないところだろう。
設計者の好みらしく、あちこちにカウンターが設けられており、それも便利そう。大きな収納は作られるが、ちょこちょこモノを置いたり、飾れるスペースにまで配慮した物件は少ない。だが、住んでみるとそうした細かい工夫が意外に便利なのである。
全戸共通してペットは相談可となっており、小型犬、猫合計で2匹までは飼育できる可能性がある。その場合、001号室はプラス1万円、それ以外の住戸はプラス2万円が必要。共益費は1万3000円、敷金は家賃の2カ月分、礼金は同じく1カ月分となっている。
こうしたさまざまなこだわりの結果が豊四季では最高額と言っても良い賃料に繋がっているわけだが、先行するガルガンチュアが現在たまたま2室空いてはいるものの、順調に埋まったことを考えると、他にない物件であれば決まるのは確か。駅からは歩いて13分ほどと多少遠いが、入居者の多くはタクシーや車利用で柏駅などに出ているという。
ここまで思い切ったこだわり物件を作るには勇気がいるが、どこか少しだけでも真似してみるとこれまでとは一味違う物件になるかもしれない。ホームページには細かい情報が掲載されているので、目を通してみると参考になる。