ここ1~2年、屋上が使える物件が増えている。中古を改装した物件であればこれまで室外機を置いていたスペースを室外機を撤去して使えるようにしたり、全く使われていなかった屋上にベンチを置くなどして使えるようにするなどといったやり方でエレベーターのない築古物件の最上階に価値を与えようという考えである。
この背景にはコロナ禍で自宅にいる時間が長くなり、閉塞感を覚える人が増えているという事情がある。
外に出なくても気分転換できる空間があればというニーズがあり、それがこれまであまり使われてこなかった屋上の活用に繋がっていると考えれば分かりやすい。
さらに新築では部屋にもできる空間をわざわざ屋上として作る例も出てきている。
それが大田区東蒲田の誕生した3階建ての賃貸住宅S(設計・ビーフンデザイン+一級建築士事務所マツ)。住戸全体が33㎡弱という物件のうち、なんと半分近い15㎡を屋上にしたのである。
北側斜線の厳しい地域に立地しており、普通は斜線に合わせて建物を後退させるか、天井が斜めになった部屋を作るかの二択。ところがこの物件は第三の選択をしたというわけである。
「部屋を15㎡広くして地域最安値を狙うか、その部分を屋上にして部屋は狭くても地域最高値を狙うか、どちらが良いかを考えた結果、狭くても最高値を狙うことにしました」とビーフンデザインの進藤強氏。「これなら誰も真似しない、どこにもない物件になると考えたのです」。
細長い土地に建つ同物件は賃貸住戸3戸、オーナー住戸1戸からなる。3戸のうち1戸は1階の公道に面したフラットフロアで、残り2戸は1階に玄関、2階に水回り、リビングがあり、3階に寝室、書斎などに使える空間があり、そこに面して広い屋上がある。
面白いのは屋上と言いながら斜めに屋根があること。これは将来、改装したいとなった時に部屋にできるようにという配慮。壁を作ればもう一部屋増築できるのである。
2戸のうち、建物中央になる住戸は両側に壁があり、屋根もあるため、プライベート感のある空間になっており、壁のない外でありながら室内の続きのような場所になっているのが面白いところ。もう1室は公道側にあり、かなり開放的。といっても、やはり屋根の存在は大きく、もうひとつの雰囲気の全く違う部屋として使えるはずだ。
確かに他にない空間で、だからだろう、見てみたいと内覧に人が集まっている。これが普通に部屋だった場合にはわざわざ見に行きたい部屋とは言いにくいが、ここに屋上があるだけでオンリーワンの部屋になり、だから見てみたい、住みたいと考える人が出てくるのである。
また、この物件1階の屋上のない部屋も他とは異なる特徴がある。借りた部屋の一部を貸せるようになっているのである。こちらの部屋は公道に面しており、玄関を入ったところが大きなカウンターのある広いキッチン。
その奥に寝室があるのだが、寝室は鍵が掛けられるようになっており、キッチン部分だけを使っていない時に貸す、あるいは店舗として使うことができるのである。
そうした用途を想定しているため、トイレは寝室の手前に設けられており、バスルーム、洗面は寝室内に。キッチンを借りた人、店舗を訪れた人はトイレは使えるが、その奥には立ち入れない。
こうした間取りであれば貸す、あるいは週末に店舗として活用することで借りた物件を活用して稼ぐことができる。転貸、あるいは営業ができない物件が大半という現状を考えると希少性のある物件というわけだ。
個人的には屋上のある住戸の寝室部分の掘りごたつ式に使えるデスクがツボ。コンパクトな空間ながら囲まれている感があって仕事がはかどりそうなのである。そして脇を見ると自分だけが使える屋上。デッキチェアを置くなどしてフルに活用したいと思う人も多いのではなかろうか。
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健美家編集部(協力:
(なかがわひろこ))