福井へ309億円、石川県へ279億円の効果 地震復興の後押しも
北陸新幹線の金沢ー敦賀(福井県)間が3月16日に延伸開業した。これによって福井、石川両県の新たに計6つの新幹線駅ができることになり、北陸ではビジネス客や観光客の流入増加による経済効果と、能登半島地震からの復興への期待が高まっている。
一方、東京から北陸方面へは時間が短くなり料金も安くなるメリットがあるものの、大阪・関西から北陸方面へは乗り換えの手間がかかるデメリットも。地域によって異なる影響をみながら、しっかり人の流れを読んでいきたい。
北陸新幹線は、1973年に整備計画が決定してから初めて、福井県まで延伸することになった。福井県を新幹線が通るのは初めてとなる。北陸新幹線の延伸は、2015年の長野ー金沢間以来だ。
新たに開業した新幹線駅は、石川県の小松と加賀温泉の2駅、福井県の芦原温泉、福井、越前たけふ、敦賀の合計6駅だ。
当然、新たに駅が開業した周辺エリアの期待は高く、報道などでも、能登半島地震もあって観光客が激減した芦原温泉近くの旅館関係者らが、観光産業の復活を楽しみにする声が紹介されている。
実際、延伸によって地域が盛り上がったという「実績」もある。
2015年3月に長野ー金沢間が延伸開業した際には、金沢に来る観光客や、金沢に進出する企業も増え、かなりの効果をもたらした。開業するまでの特急利用者と比べ、北陸新幹線の利用者は約3倍まで増えたという。
今回の延伸開業でも、観光客の増加や企業の進出といった効果が期待できる。日本政策投資銀行の試算によると、福井県への経済波及効果は309億円、石川県への経済波及は効果は279億円に達する見通しだ。能登半島地震からの北陸の復興に対し、大いに貢献しそうだ。
東京から敦賀へ時間50分短く、料金1190円安く
一方、東京、大阪それぞれからの利便性は違いが出る。
たとえば、東京から敦賀までをみてみると、北陸新幹線と特急を乗り継ぐこれまでの方法だと、時間は3時間58分かかっていた。北陸新幹線が直通となることで、3時間8分まで50分短くなる。また、料金も1190円安くなる。
移動時間が少なくなり、料金も安くなるのだから、東京から北陸方面へ出かける人は多くなることだろう。
一方、大阪から北陸へ出かける利便性は少し悪くなる。これまで、大阪から金沢までに行くとき、特急「サンダーバード」の直通で行くことができたが、今回の延伸開業によって、特急は敦賀止まりとなり、敦賀で北陸新幹線に乗り換える手間がかかるようになった。
この結果、所要時間は2時間31分から2時間9分に22分短縮されたが、料金は1620円高くなった。
懸念されるのは、関西から北陸へ出かける人が少なくなることだ。関西と北陸は隣り合う地域だけに、企業同士の取引もかなり密接だった。往来するのが不便になれば、企業同士の交流にしても観光客の訪問にしても、新たには増えず、むしろ少なくなってしまうかもしれない。
残るは敦賀ー新大阪間の開通 しかしまったくめどたたず
今後の課題は、北陸新幹線の敦賀と新大阪がいつ結ばれるかだ。本来の計画では、両区間が延伸開業し、東京と新大阪が結ばれて、北陸新幹線が「完成」となる。ちなみに、今回の延伸開業で北陸新幹線全体の約8割が完成した。残りは新大阪までの約140キロとなる。
新大阪までの開通時期については、これまで「2031年度に着工すれば、2046年度に完成する」という数字が出て一人歩きしたことがある。しかし、今のところ、完成はおろか、着工のめどすらまったく立っていないのが実情だ。
敦賀から先のルートとしては、福井県小浜市を通って京都につながる「小浜・京都ルート」、滋賀県にある米原駅を通って京都へと出る「米原ルート」など、複数の案が検討された。
そして16年末、与党のプロジェクトチームが「小浜・京都ルート」に最終決定した経緯がある。さらに17年、京都ー新大阪間は、京都駅ー京田辺市(松井山手駅付近)ー新大阪駅を結ぶルートに決まった。
しかし、小浜・京都ルートの区間は大半がトンネルを通るエリアとなる。トンネルを掘るために出てくる土砂が付近の河川を汚すなど、環境面を懸念する声は、沿線になる予定の自治体でも大きい。
河川などの環境面への懸念から鉄道の着工がなかなかうまくいかないのは、リニア中央新幹線をみてもよく分かる。
リニアは、静岡県の川勝平太知事が、大井川の流量減少や南アルプスの生態系への悪影響を主張して、静岡県内の工事区間での着工に反対。リニアの工事が前に進んでこなかった。
もっとも、川勝知事は今年4月1日、新人職員への訓示の中で、職業差別ともとられかねない発言をし、批判されて辞意を表明した。川勝氏が辞め、リニアの工事も前に進む可能性はある。
新大阪まで北陸新幹線がつながれば、大阪・関西にも多大な好影響が予想されるため、関西の政財界は、官民での協議会をつくるなど設立。代表に就いた大阪府の吉村洋文知事は「オール大阪で国に働き掛ける」とし、誘致に向けた活動に懸命になっている。
ただ、先ほど触れた通り、沿線になるとみられる自治体の懸念を取り除き、広範囲な支持をとりつけなければ、実現は難しいだろう。
一方、不動産投資家は、北陸新幹線の今回の延伸開業や、今後の延伸の動向で、どのエリアに人の流れが集まり、どのエリアでは減るのかをしっかり見極めていくことが大切だ。そして、みずからの賃貸経営の拡大にうまく生かしていきたい。
取材・文:
(おだぎりたかし)