こんにちは、オロゴンです。最近、物価や人件費の高騰に伴って、建設会社の倒産が増加してきています。このような建設会社の倒産は多くが「資金繰りがうまくいかないこと」によるものです。
SNS上だけでなく、リアルの知り合いからも「あそこの建設会社は危ない」「次の現場の為の資材購入資金が足りないらしい」という話を聞く機会が増えてきました。経営に窮している建設会社は本当に多いのだと実感します。
こういう企業では、会計上の利益は黒字なのに、お金の支払いができずに倒産してしまう、いわゆる「黒字倒産」が起こっていると考えられます。
黒字倒産が起こるのは、事業を回していくためのお金「運転資金」が不足してしまったことによるものです。今日はそんな、「運転資金」について書いてみたいと思います。
■事業を行う上で大切な「運転資金」
大家さんとして銀行周りをしていると、「不動産賃貸業に運転資金は必要ないですよね」と銀行の担当者に指摘されたり、そうかと思えばSNSで「運転資金として◯百万円借りられました!」という投稿を見かけたりすることがあります。
本来は不動産賃貸業に必要ない資金なのに、借りられてる人もいる?一体どういうことなのでしょう?それを理解するのには、そもそも「運転資金」について理解する必要があります。
もともと運転資金とは「事業を回すために必要になる最低限のお金」のことです。多くのビジネスにとって、新しい売上を得るためには、まず先に出ていくお金が必要となります。
たとえば、僕は鹿児島でスイーツショップを運営していますが、製品を作るためには、材料を仕入れなくてはなりません。厨房の倉庫には材料をストックしてますし、作った製品もある程度数を用意しておく必要があります。 多くのビジネスでは、顧客に商品を届けるためには、まずは先に事業者側がお金を支払う必要があります。
材料代を先払いし、顧客に商品を売り、差額を利益とする。
これは基本的な商売の形で理解しやすいと思います。
ITビジネスでは原価がほとんどかからないものもありますが、従来型のほとんどのビジネスでは、このように「仕入れ→販売」を繰り返すことで利益を上げていくわけです。ちなみに、不動産賃貸業(大家業)はこのようなビジネスモデルではありませんよね(そこもポイント)
そして、日本の商慣習では、売上を月で締めて翌月末までに払う、という掛け取引が一般的です。僕の会社でも、卸会社を通じてわらびもちを量販店で販売していますが、そのお金が入ってくるまでのプロセスは以下のようになります。
・4月末に販売した商品をカウント
・「5月末までに振込」記載の請求書送付
・5月末に着金
つまり4月1日に売れたわらびもちの代金が、自分の会社に現金として入ってくる5月31日まで、最大2ヶ月のタイムラグがあることになります。
このタイムラグは、短ければ短いほど資金負担は少ないです。昔ながらのラーメン屋さんのように顧客からすべて現金でお金が入れば、このタイムラグは0になり、すぐに次の仕入れにお金を回せるのですが、世の中そういう商売ばかりではありません。
請求書が発行された分は会計上の「売上」になり、「売掛金」として処理されます。キャッシュが自分の手元に入るのは2ヶ月後なのに、売上になってしまうわけです。
これが、黒字倒産のひとつのポイントです。
売上がどれだけあっても、資金ショートしてしまえば、ビジネスはゲームオーバーです。
■売掛金が多額になりやすく、回収期間が長い建設業界
売掛金と同様に、仕入れ側にもタイムラグがあります。「買掛金」といいますが、売掛金と違って、こちらは長いほうが自社にとって有利になります。
例えば、料理の材料を仕入れ、その支払を例えば2ヶ月猶予してもらえれば、顧客に商品を売って手にしたお金で、後払いできるので、運転資金は必要ないことになります。
仕入れで現金を使わず、クレジットカードで支払うことは、現金の流出を1ヶ月近く遅らせられるので、運転資金を借り入れるのと同じ働きをすることになります。事業者にとってはクレジットカードもひとつの資金調達といえるというわけです。
僕は銀行に勤務していましたが、銀行に入って最初に「融資」の研修で教えられたのが、企業の決算書から運転資金を計算する以下の数式でした。
大学を出たばかりの当時の僕には、ただの数式に過ぎませんでしたが、今ではだいぶイメージができるようになりました。
自分が受け取るお金(売掛金)をできるだけ早くもらい、自分が支払うお金(買掛金)はなるべく待ってもらう。こうすれば運転資金が抑えられて、資金繰りが楽になるわけです。
逆に言うと、苦しい会社ほど「早めにお金をくれ」「支払いを少し待ってくれ」と取引先に懇願する状況に追い詰められるのです。
運転資金の金額は、このような支払の「期間」だけでなく、売上(月商)にも影響されます。これまでは100万円で済んでいた仕入れが、売上好調で200万円分を仕入れる必要が生じると、2倍の運転資金が必要になってきます。
つまり、運転資金は、売上の金額によっても掛け算的に増えることとなります。建設会社が、黒字倒産するのはまさにこのパターンです。売上が好調であればあるほど、次の現場の資材の仕入れや社員の給料支払ができなくなってしまい、事業を回すことができなくなってしまうのです。
もともと建設業界は、売掛金が多額になりやすく、しかも回収期間が長い傾向にあります。手形が使われていれば、売上の現金化が6ヶ月以上後ということもざらにあります。
そこに加えて、現在は資材価格や人件費がおそろしく高騰しています。利益計算や資金調達をおろそかにして、どんぶり勘定でやっていると、気付いたときには手遅れになってしまうわけです。そういう意味では、特にシビアな経理マネジメントが求められる業界です。
不動産投資業界では、中古物件価格が上昇しており、新築投資がトレンドになってきています。そんな状況で、安く建築してくれる業者を自分で開拓したところ、そこが倒産してしまった、という話もちらほらと聞きます。
ただでさえ 資金繰り管理が難しい業界なのに、その資金繰りを難しくする要素である「物価高騰」と「人件費上昇」が同時に襲ってきています。
■その会社は経理周りをプロに頼んでいるか?
今後も、状況は厳しくなる一方でしょう。工事を頼む際には、本当に信頼できる業者かどうか、資金繰りに問題はないか、経理周りをプロの人間が見ているのか(←これすごく大事です)、など、よくよくリサーチしたうえで検討することをお勧めします。
僕が銀行に入った直後に発生したリーマンショック時は、地方でも、建設・不動産関係の会社というだけですべての案件が本部審査になり、融資が厳しくなった時期がありました。
個人的には最近の様子がその時の空気感にちょっと似ている気がするのですよね・・・。次回は、大家さんにとっての運転資金について書きたいと思います。