138話で書いた僕が起業したビルは、地下のライブハウスと、もともとあった韓国料理さんの次の入居が決まりませんでした。この2店舗からの賃料で借入の返済はできるので、焦りはありませんでした。
参照:所有ビルでライブハウスがオープン!「安く仕上げて安く貸す」の次のステージ
空いているのは40坪の店舗。この大きさの店舗を借りるテナントなんて、今の時代はなかなかいないことは承知です。そして、そのことはメインバンクさんにも予め伝えていました。
時折、内見に来てくれる方もいるのですが、地下のライブハウスの振動に難色を示します。正直なところ、僕も事前に聞いていたよりもはるかに大きなライブハウスの振動に文句の1つも言いたくなる時がありました。
でも、もしもう一度、契約前に戻れるとしても、やっぱりライブハウスに入ってもらう決断は変わりません。だから、「このライブハウスがあるのが良い」と言ってくれる人を待とうと思いました。
■ディスコか?居酒屋『新時代』か?
ビルを購入してから1年半、2人の候補者が突然現れました。不動産ってどうして、いつも同じ時期に声が掛かるのでしょうか。「今、違う人が検討しています」っていうセリフはインチキ臭く感じますよね。でも、業者的に見ると、これは本当によくあることなんです。
1人は、地元の大きな会社の社長さんでした。ディスコをつくりたいといいます。これには驚きました。今の時代に、ディスコをやりたい人が現れるとは。
もう1人は、居酒屋をフランチャイズでやりたいという人です。現在はトラックの運転手で飲食業はしたことがないとのこと。僕は軽くパニックになりました。でも、素人なのにこんな大きくて高額な店舗を借りるって、どういう思考回路をしているのかと逆に興味を覚えました。
「最近まで東京に住んでいたんです。『新時代』という居酒屋の伝串と鳥刺しユッケがすごく好きで通っていたんですが、群馬に帰ってきたらこのお店がないんで、だったら自分が作ろうと思ったんです。だから、飲食業をやりたいのではなく、『新時代』をやりたいだけなんです」
失礼ながら、全く理解できませんでした。僕も結構思い切った選択してきた部類だと思いますが、飲食業をしたことがないのに、好きな伝串を毎日食べたいから自分でお店をしてしまおうと考えるなんて、やっぱり少し驚きました。
しかも若くない(僕の1つ下です)。普通、人生をそれなりに経験してきたならば、自分の好きなものを食べるのにお店をやろうとか思わず、安定的な道を考えると思うのです。ここで、自分なら絶対にしない選択をする人と付き合いたいという僕の持病が発生してしまいました。
「未経験の人がお店をできるんですか?」
「はい、既に本部とは面接が済みFC契約を交わしています。お店のビジネスモデルでは、素人でも事前の研修を受ければ繁盛店をすぐに作れることになっています」
しかし、冷静に考えれば、地元の大きな会社の社長さんと付き合った方が良いに決まっています。地下がライブハウスで、1階がディスコ。間違いなく地方では珍しい音楽ビルになると確信しました。
ところが、地下のライブハウスのオーナーさんは、「1階がディスコだとどちらも週末がメインの営業となり、平日が死んでしまうビルになりかねない」と反対します。確かにそれは一理あります。
そこで僕は、居酒屋『新時代』について調べてみることにしました。ちょうど、発売されていた2023年9月号の飲食店経営に新時代の社長インタビューがあったのでKindleで購入してすぐ読みました。
■FC本部の社長のインタビューを読んで感じたこと
僕は基本的に社長としか付き合いません。決定権のない人と会って話をしても時間の無駄だからです。ですので、社長が出てこない大きな会社にはテナントは貸しません。今回はFC店ですが、やはり本部や社長の考え方は知っておきたいと思いました。
結論から言うと、僕はこの社長インタビューを読んだことが、このお店に入ってもらおうと思う決定打となりました。新時代の社長は僕と同じ歳で、しかも同じ時代にサッカーをしていてブラジルでプロをしていたとのこと。それだけで心惹かれます。
しかし、その後がすごかった。興味がある方は雑誌を読んでみて欲しいと思いますが、下記の4点に簡単にまとめます。僕はkindleで購入後に、面白かったので雑誌でもわざわざ購入しました。
①コロナ禍で過料を数千万円支払う
ブラジルで5年間過ごした時に、スラム街ではウィルスは頻繁に蔓延し日常茶飯事だった。しかし必ず免疫力は手に入れる。そういう光景を見てきたので、営業を止めなかった。そのことで個人にも会社にも激しい批判があり、国に過料を数千万円を支払いながら営業を続けた。
②伝串の開発に8年をかける
名物の1本50円の伝串を開発するために、一切の妥協を排除したことで、開発チームのメンバーも料理長もこれ以上はついていけないと全員去りながらも1人で開発を続けた。
③自分が365日外食をする
誰よりも目利き力を高めるために毎日外食をする。自分がつくったお店に毎日通い続ける。お客様よりも自分が先に飽きることで、先に手が打てる。
④役員の半数を解任し、株を買い戻す
役員会の半数以上が反対した秋葉原店を自分の責任でオープンさせ、月商4,800万円の超繁盛店を作る。出店決定のスピードの遅さに怒り、役員の半数を解任、役員会を解散。上場直前にもかかわらず自身の怒りで3年間の準備と数億円の準備費用も水の泡とし、逆に市場から自社の株を全て買い戻す。
自分と同じ年で、ここまで僕がやれるかと言われたら、どれもできません。是非、僕のビルに出店して欲しい、そして機会があればこの社長さんと、直接話をしてみたいと思いました。
人は誰と付き合うかによって、人生が決まります。当時、次男がよく聴いていたADOの歌の中にある「新時代はこの未来だ」というよくわからない歌詞の影響ももしかしたらあるのかもしれませんが(笑)
7月の終わりに問い合わせをもらって、僕と借主さん、そしてFC本部と連携して契約をしたのが12月。そこから借主さんは東京の『新時代』の店舗で長期間の研修、同時に店舗の改装工事をして今年3月に従業員募集とトレーニング、3月末にはオープニングレセプション。
ここまでたどり着くのに、かなり神経をすり減らしました。打ち合わせも何度もしましたし、オープンしたらお客さんが殺到して、しばらくは予約が取れなくなるだろうと思い、僕は試食会を楽しみにしていました。
しかし、加藤ひろゆきさんとLAに行くことにしたため、借主さんには申し訳なかったですが試食会は諦めました。オープン当日の様子が、地元新聞社のオンラインアクセスでNO.1記事になったそうで、僕もアメリカから確認しました。
■2階のもう一つのスペースにも申し込みをいただく
オープンからまもなく1ヶ月が経過しますが、混みすぎていてまだお店には行けていません。借主さんは「別枠で席をとります」と言ってくれますが、若い人で大賑わいの店舗です。僕は今後も1度も行けない予感がしています。
そんなある日、神様からご褒美が来ました(連日神棚に手を合わせているからでしょうか)。スタッフの休憩所と大量に届く食材の置き場が足りないので、ビルの2階の空いている店舗を貸してくれと、『新時代』の借主から要望があったのです。
連日お客さんが殺到し、スタッフの休む場所がすぐに必要だと言います。聞けば、平日も朝3時まで常に満席、朝は早くから仕込みの人たちがお店に来ているとのこと。
そのスペースは僕の起業した場所なので、何かの為に(いつかレコード店を再開するとか)取っておこうと考えていました。しかし、妻に相談したら「すぐに貸しなさいよ!思い出より、毎月10万円入ってくる方がはるかに大事」と目の色が変わっています。
確かに、今回は事情も事情ですし、僕の起業した店舗をテナントさんの平和のために貸すことにしました。
■購入から2年で満室に。5,000万円ビルは「新時代」に突入
2021年に賃料収入15万円(当時)だったビルを5,000万円で購入し、1,000万円かけて改修して、2年で満室に。現在の毎月の賃料は69万円となりました。お金よりも何よりも、このビルや周辺に人の賑わいが桁違いに出てきたことが嬉しいです。
昨晩もこのビルに行ったら、お店の前に人が集まり、ビルの階段には数組の若い男女のグループが座っていました。さびれていたこのビルに若い人が出入りして、クラブの階段に座ってたむろしているような光景を夢見ていた僕は、涙が出るほど嬉しくなりました。
今の僕の年齢で階段に座っていたらアホですが、若い人だから許されることがあっても良いと思っています。
今の時代は、なんでも排除する方向に向かいがちですが、自分達だって若い時は散々迷惑を周りにかけてきたはずです。それを年配者は笑って許し、少しずつ教える。こんな感じが良いと思っています。(もちろん周辺への迷惑となるようなゴミ、騒音はダメです)
ディスコは残念ですが、またいつか別の機会にと思っています。そして、『新時代』というその素晴らしい店名の通りに、このビルがようやく満室となり、再生できたという実感を持てたので、今回ご報告させていただきました。
それにしても、半年上にわたる今回のプロジェクトには疲れました。借主さんも、「自分が食べたくてお店を始めたのに、忙しくて全く食べる暇がない」と言っていましたから、いつか裏方どうし、一緒にゆっくりと伝串を食べたいです。