前回までは、バランスシート・シミュレーションや戦国英雄伝(?)など、現場から少し離れたお話をさせて頂きましたが、大家業の主役は実物たる不動産であり、その基本は現場だと思います。
これから二回に渡り、繁忙期の愚生の現場状況をご参考までに速報させて頂きます。
さてコロナが5類に移行して初めての繁忙期でしたが、皆様の状況はいかがでございましょうか?
愚生は3月、同時・一気に7室の退去があり、この集中度は大家業30年間で初めての経験です(数か月にわたってバラバラとモグラ叩きのように10室程度発生したことはありました)。
それほど、人の動きが非常に活発になってきた現れだと感じました。
エリアは品川区、世田谷区、中野区、川崎区、八王子市、相模原市と、特に偏りなどはございません。
そのうち、世田谷区と中野区の築古狭小3点ユニット物件は、家賃据え置きで募集すると、退去前に次の入居者が決定しました。
これを最優先にして原状回復を対応して3月中に完了。
品川区、八王子市は、その次の優先順位で3月中に原状回復作業中。
川崎区、相模原市は4月退去立会予定です。
退去連絡を受けた時点で、保証会社、管理会社と連携して、退去日と立会日を上手く調整して、日割り分を前家賃として先行回収して、退去後に、家主が後払いする精算方法として、ある程度、前金と相殺処理できるようにしています。
■瑕疵・事故破損の原状回復費用は、エビデンスを現場で示してその場でサイン
退去後の原状回復は、賃貸商品として再度上市(賃貸市場へ上げる)には非常に大切ですが、申し上げるまでもなく、コストトレードオフとパフォーマンスが鍵です!
愚生は狭小物件が多いので、仮に1~2万円/㎡コストと仮定して、全体の1割が退去した場合、
・18㎡×1~2万円×6室=108~216万円
になります。
例え、他の業務収入や証券からの年間配当・分配金で賄えたとしても、大家業として、事業内で資金を回して、月々の資金繰りは必ずプラスにして、年度内決算で利益も積上げなければ意味がありません。
その鍵は、やはり現場に密着して、最適化した、リーズナブルな回収と原状回復です。
表1はあるファミリー物件での請求項目の一例です。
この物件は新婚でご入居頂き、上のお子様が4月から小学校入学で、下のお子様が年明けに生まれたタイミングで、郊外に中古戸建を購入なさいました。
ご更新の都度、ご家族の状況をお伺いしていましたので、今春のご退去は、ある程度予想していました。
退去お立合い当日は、お二人のお子様へおもちゃのプレゼントを持参して、小学校入学もお祝い申し上げました。やはり初めて教育を受ける学校デビューは人生最大の門出で、おめでたいイベントです!
退去時に最も重要で、且つ、難しいのが、自然劣化と過失・事故による破損の区別と、修理費用の回収(ご負担請求)交渉です。
インフレでも家賃は中々上げられないので、精神的にも費用的にも負担のバランスを考慮したリーズナブルな回収に努めました。
図1 トイレドアに穴
本項目は、「穴は自然劣化によって空かない」ことを根拠に請求。
現物を前に、入居時のお写真と両者を比較して、面前で直接ご覧いただくのが秘訣です。
図2 クロスの破れ
汚れている箇所は多々ありますが、これは自然劣化として、除外します。
しかし、破れは、自然には発生しないことを根拠にご納得いただきました。
内装工事屋さんには、玄関、リビング、キッチン等、部分ごとの分割見積を出してもらい、「玄関部分」の費用の一部ご負担(最初は半額から)として交渉しました。
図3 トイレの落書き
右側の壁の下側が非常に汚れていますが、自然劣化としてこれは免責でOKとしました。
一方、入口正面壁にお子様の落書きがありますので、お子様を子褒めするとともに(笑)、こちらを理由に事故請求させて頂きました。
汚れとしては微々たるものですが落ちないこと、発生原因がリーズナブルか、否か?で論理的にご説明申し上げます。
お立合い開始時に、お子様お二人分のおもちゃをお渡しして、小学校入学のお祝いのご挨拶を申し上げておきましたので、和やかにご了解頂けました(笑)。
玄関同様、トイレ壁全部を張り替えるうちの半額としてご納得頂きました。
図4 窓手摺ポール破損
おそらく、お子様がぶら下がって遊んで破損落下したのが原因と想像されます。
しかし、お子様が壊したなどとは、口が裂けても言わないようにして、これも自然には破損落下しないことを根拠に請求させて頂きました。
これはクロスと違い、全額をご負担いただきました。
この物件は自主管理による、入居者さんとの良好な関係があったので、スムーズに行きましたが、一方では、入居者との関係や距離感の取り方とのトレードオフは、ケースバイケースで、時間・労力・精神面で、大家さんそれぞれだと思います。
■専有部に漏水痕跡がある場合は管理組合への賠償請求を建物管理会社へ
この場合、専有部管理会社さんは、原因等は無関係に、工事の受注が最重要目的ですから、専有部天井に漏水痕があっても、クロス張替えを見積もるだけです。
区分物件の場合、明らかに上階からの漏水が原因ですから、専有部外で対策しないと確実に再発します。必要なアクションは共用部建物管理会社への報告と費用請求、対策工事交渉です。
専有部管理会社さんは、1円にもならない業務なので、分かっていても、職掌外として「黙って専有部修繕見積」だけしかしません。
ここは区分専有部オーナーとして自分自身で建物管理会社(管理組合)と交渉して、原因箇所の共用部修繕と、自分の専有部内装の被害請求をしなければ、誰も助けてくれません!
図5 専有部天井の共用部からの漏水
この写真では玄関出口の角に漏水痕があり、天井電球の中にも水が溜まっていました。
入居者の談によれば、昨年の漏水発生時に、専有部管理会社へ連絡した際は、バケツで水を受け止めておくよう指示があり、退去時に確認しますと言われたとのこと。
私の方へは、専有部管理会社と共用部管理会社から、今まで、いずれも何の連絡もありませんでした。
当日、私が上下階を見て回って、漏水痕を追いかけて原因調査した結果、上階共用部廊下の、図5真上にあるメーターBOX内部の排水管からの漏水と推定しました。
この写真をもとに、私の方で、損害賠償請求書を作成して、建物管理会社へ送付し、管理組合の了解をとってもらって、天井クロス費用を負担して頂きました(壁側のクロス修理費までは、請求しませんでした)。
このように、区分物件の場合、専有部管理会社さんは、時間と手間がかかる割に1円の利益にもならない、専有部外関係(共用部・他の専有部など)との利害交渉は、見て見ぬふり、分かっていてもタッチしなくない、やらないというのが本音だと思います。
オーナーがしっかりと責務を果たさない限り、キャッシュアウトだけになってしまいます。
次回は繁忙期の現場速報の後編です。
DIYで交換できる設備類などについてお話したいと思います。