日銀は、3月18日、19日に開かれた金融政策決定会合で、大規模な金融緩和策を変更することを賛成多数で決めました。今回は、その内容と借入金利にどのように影響するか解説します。
■金融政策変更の内容と政府の反応
発表された日銀の今後の具体的な方針は要約すると、
・民間金融機関が日銀の当座預金に預けるときに適用する金利を0.1%とすることで、短期金利の指標となる無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0~0.1%程度で推移するよう促す
・長期金利を低く抑え込んできた長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)を終了
・ETF及び J-REITについて新規の買入れを終了
・企業が資金を調達するために発行するコマーシャルペーパーおよび社債等の買入れを段階的に減額し、1年後をめどに終了
といったところです。
メディアで話題になっている「マイナス金利の解除」とは、金融機関が日銀に預ける当座預金に関するものです。日銀当座預金の金利はプラス0.1%、0%、マイナス0.1%の3層構造で、余剰資金が決められた残高から超過するとマイナス金利が適用されていました。
今後は、マイナス金利政策が導入する前の従来型の当座預金に戻したうえで、超過残高の付利金利を+0.1%としました。ただ、日銀はマイナス金利政策を解除しても追加の利上げは急がず、当面は緩和的な環境を続ける方針です。
また、日銀がマイナス金利政策の解除などを決定したことをめぐり、岸田総理大臣や鈴木財務相は、
・政府と日銀が2013年に発表し、2%の物価安定目標を掲げた共同声明は見直さない
・緩和的な金融環境が維持されることになったことは適切であると考えている
・今回の政策変更をもってデフレ脱却ということにはならない。いろいろな指標を総合的に判断して決めなければいけない
などの認識を示しています。
■アパートローンや不動産融資などの借入金利への影響
借入の金利水準は、基本的に各金融機関それぞれの判断で決まります。
ただ、日銀の金融政策は各金融機関の金利に間接的に影響をあたえます。
日銀がイールドカーブ・コントロールで長期金利を低く抑えていた時は、借り入れの固定金利も低かったです。
今後日銀は、「長期金利が急激に上昇する場合には、毎月の長期国債の買入れ予定額にかかわらず、機動的に買入れ額の増額や指値オペ、共通担保資金供給オペなどを実施する」としています。
ただ、あくまで激変緩和措置で、固定金利の水準はマーケットに委ねられることになります。
既に金融機関が長期金利の水準などを参考に決める固定型の金利は、長期金利の上昇傾向を受けて引き上げる動きが出ています。
一方、変動型の金利は、金融機関が企業向けに貸し出す際の基準金利「短期プライムレート」や「全銀協TIBOR」を参考に決められています。
「短期プライムレート」は、各金融機関が定める「もっとも信用力が高い企業に貸し出す金利」のうち「1年以内の短期融資」に適用されるものです。
銀行が独自に決めるもので、レートにばらつきはありますが、主な銀行の短期プライムレートは2009年1月以降、一度も変わっていません。
全銀協TIBORはメガバンクなどの主要15行が申告した金利のうち最も高い2行と低い2行を除外し、残りを単純平均して算出します。毎営業日ごとに公表しており、1週間物から12カ月物まで、期間ごとに13種類あります。
短期金利は日銀の政策金利の影響を大きく受けます。
しかし、日銀がマイナス金利政策を解除したといっても、現状は0.1~0.2%程度上昇しただけであって、エンドの借入人にとっては事実上現状維持です。
■今後、借入金利は急上昇する?
日銀が、このタイミングでマイナス金利政策を解除したのは、「2%の物価安定の目標」が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至ったと判断したからです。しかし、現時点の経済・物価見通しを前提にすれば、当面、緩和的な金融環境が継続するとも考えています。
植田日銀総裁も3月21日に開催された参院財政金融委員会で、「住宅ローン金利を含む、貸出金利が大幅に上昇するとは見ていない」との見解を示しています。
海外勢の中には、日本も欧米のようにコンスタントに利上げが進むと予測するむきもあります。
しかし、私個人の見解としては、確かに今年は大企業主体に賃金が上昇していますが、日本独特の終身雇用制度、ケイレツ・下請けなどの取引慣習、少子高齢化によって賃金と物価が相乗的に上昇する好循環が続いていくのは難しいと考えています。
よって、移民政策や企業間取引慣習の抜本的変更がない限り、金利の大幅上昇は当面ないと考えます。
皆さんも金利の先を読むというより、視野を広くして日本の先行きを読むという感じで今後の金利動向を判断していただければと思います。